コジマプロダクションについて

ゲーム雑誌の表紙

電撃PSVol.629のコジマプロダクション設立1周年特別企画にて、
小島秀夫監督のインタビューを取り上げてたのをまとめました。
スタジオを立ち上げてから約1年、日々どんな風に過ごしてきたのか?
デスストランディングの開発と合わせて、いろいろと小島監督が語ってました。


コジマプロダクションの立ち上げ

コジマプロダクションのロゴ
小島:

インディーズの立場としては、何もないところから始める分けですから、
少人数でジャンルは何でもいいから、何かしらの尖った作品を作り、
その間に大きな作品を作る準備を整えるのが普通ですよね。
またはCMや短編映画を撮ったりとか。


実際そういった話もいただきました。
もしくは完全に休んで、どこか南の島で小説でも書きながらリフレッシュしようとも考えました。
ですが、周囲の声を聞くと、そういったことは望まれていない。
小島秀夫監督はそうじゃないでしょ」と。



小島:

ゲームを作っていくにしても、さっき言ったように当初は何もない分けで、
最短距離でゲーム開発の体制を始めるしかないじゃないですか。
ですから、垂直立ち上げなんですよ。
オデッセイ』のマット・デイモンみたいなもんです。


あの映画は1人で火星に居て、食べるものがないから、
自分のウンコを畑に撒いて、耕して地球に帰る基盤を作っていったでしょう。
それを地球のみんなが応援している。ああいう構図です(笑)


ですから、最初の立ち上げからいろいろ動いてました。
企画については新ちゃんが一緒にいたので、企画がフィックスする前から
アイデアなりキャラクターなりを彼に投げて、スケッチしてもらったり、
いろいろ固めていきました。



ゲームエンジンを求めた、小島監督のスタジオを巡りについて

小島:

1月になってゲームエンジンがいるので、SIEのマーク・サーニーさんに相談したところ、
じゃあ、各地のスタジオを一緒に視察しましょう。」と言っていただき、
1月からはヨーロッパやアメリカにあるSIE系スタジオを周りました。


一番印象深かったのは、イギリスにあるメディア・モレキュール
このスタジオはギルフォードにあるのですが、2人のスタッフが
ロンドンのSIEスタジオまで迎えに来てくれて、視察が終わって帰るまで
ずっと付き添ってくれたんです。あまりの歓迎ぷりに、涙が出そうになるほど感激しました。


メディア・モレキュールが凄いのは、スタジオの環境と彼らが作っているものが
リンクしているところです。これは僕の目標でもあるのですが、
座っている人たちの表情、机の形、デザイン、座り方、アットホームであるかとか。
そういった雰囲気と彼らが作っているものとが一致しているんです。


海外のスタジオでは、平日なのにスタジオに子供を連れてきて、
抱いたまま仕事をしたりもします。女性スタッフだけでなく、男性スタッフもですよ。
子供がスタジオ内でお菓子を食べたりもするが、もちろん無料です。
飼い犬を連れて来ている人もいます。こんな開放的な職場は日本では考えられないですよね。


ですが、スタジオには様々な人種、宗教も異なる人々が集う分けですから、
彼らの才能を引き出すために、こういった開放感が重要になるわけです。



コジマプロダクションを「インディーズ」と言ってるのはなぜか?

ルーデンスのロゴムービーの制作話part2
小島:

コジマプロダクションはパブリッシャーではなく、ただのスタジオですから、
僕らが「こんなものを作りますから、出資してくれませんか?」と、
毎回出資者に向けてアプローチできる訳です。小さい映画プロダクションみたいに。


それに、何かの後ろ盾がある分けでもなく、何をするにも自腹ですから、
こういった立場はインディーズですよね。
あと「物作りというのは、企業ではないということを分かってもらいたい。」という想いもある。


日本は会社に入って勉強して物作りをしますが、
こういったシステムが半ば破綻しているように思います。
これからはパブリッシャーと出資者がいて、クリエイトはスタジオという関係にしないと、
もう持たないと思うんです。


ただ、CGを始め、ゲーム作りってもの凄く最先端の技術が要求される。
昔の映画製作における「〇〇組」は、1本作り終わると解散して、
また次のときに集まるものですが、ゲーム作りでこれをやると、もう技術的に出遅れるんです。
開発中でなくても、技術に触れていないと進歩に置いていかれるんです。


技術力不足の開発チームをあてがわれたら、企画なんか実現できません。
こうならないためには、クリエイターを雇って、給料を払って、
日々進化する技術やツールに適応させて、ノウハウを持ち続けないといけない。
自分たちの夢を実現するために、だからこその独立スタジオなんです。


もちろん、その際のリスクは凄いことになります。
やはり何かしら細かい仕事を受けるというのが現実的ですが、
デスストランディングはSIEさんとのコラボということで、今はこれ1本に専念してます。



DECIMAエンジンの優れているところとは?

ゲリラゲームズのゲームエンジンのソースコード
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デスストランディングで使用しているDECIMAエンジンについて

DECIMAエンジンは、オランダにあるスタジオのゲリラゲームズが開発したゲームエンジン。
コジマプロダクションもDECIMAエンジンを使わせてもらう代わりに、
共同でDECIMAエンジンを開発・強化していくことになった。


小島:

今作っているデスストランディングはオープンワールド型のゲームで、
どういうゲームデザインにするのかはまだ言えませんが、
それに耐えうるエンジンというと限られてくるんです。


DECIMAエンジンはその条件を満たしていて、描画も凄いし、ポリゴン数も出る。
システムとしてもちゃんと作られていて、実に高度なテクノロジーです。
そのうえで改良も加えられます。


アーロイとサンダージョーのバトルシーン
小島:

ただし気を付けなければならないのが、ゲリラゲームズは今、
Horizon Zero Dawnを開発中だということです。マークさんが言ってましたが、
エンジンはレゴブロックのようなもの」なんです。


レゴブロックを使ってAとBという作品を作ったときに、同じパーツを使っているから、
できたものが似たような見た目になってしまう可能性がある。
もちろんユーザーが望んでいることではありませんから、
ホライゾンとはまったく見た目の違うものにするために考慮する必要がある。


アーロイとロックブレイカーの写真
小島:

僕はライティングを物理ベースにしてフォトリアルに作りたいのに対して、
ゲリラゲームズはファンタジーというか極色彩でアーティスティックな世界を
表現したいとのことでしたから。まったく異なるビジュアルを目指しているわけです。
そうならないことを証明しなければなりません。


そのために、僕らが作りたい絵をDECIMAエンジンで検証して、
その成果を彼らに渡して見てもらったりもします。
そうすることで、双方ともグラフィックの選択肢が広がっていくんです。
そうしてできたのが、この前発表した第2弾のティザートレイラーです。


コジマプロダクションが試すデシマの描画、室内と戦車の画像

結果、デスストランディングもホライゾンも同じエンジンで動いてますが、
印象はかなり違うものに仕上がっています。
この結果を受けて、DECIMAエンジンを本格的に使おうという話になりました。


ゲリラゲームズと交流を深めて、交流しながらアムステルダムに
コジマプロダクションの分室的なスタジオも作る計画です。


今、ヨーロッパには優秀な技術者が多いんです。
デンマークやスウェーデンにはゲーム開発者が多く、子供の頃から1人に1台のPCが提供される
という環境も整ってますから。日本語が話せない人も、アムステルダムでなら
働けると思いますので、分室の規模はどんどん拡大されていくかもしれません。



Death Strandingの開発インタビュー

現在のデスストランディングの開発状況はどうなのか?

Death Strandingのロゴ
小島:

この1年間でロケットの打ち上げ準備が整ったんです。
エンジンも目標も決まって、細かい調整もして、これからようやくエンジンに点火して
本格的に進み出すと言ったところです。


今のゲーム作りはかなり高度で、バイオテクノロジーで人間を作るようなもの。
細胞を1つ1つ作って血管を形成して、血液を流す。
テストしてみたら、どこかに流れていないところがあるけれど、そこがどこか分からなくて、
位置を特定するまで一週間もかかるなんて状況で、そこかしこで起こる。


スタッフの人数が多すぎるほど起こりえます。
僕はスタッフが多いと制御しきれませんし、多くても100人以内が限界です。
大きな作業が必要なものになると、この規模では制作できないから、分業で対応するんです。


レストランで水を頼んだとしましょう。
水を頼んだ人がゲームのユーザーです。レストランでは注文を聞く人と、
注文を厨房に届ける人、水を汲む人、水を届ける人、コップを洗う人、
いろいろな仕事に分業しますよね。


水を飲んだユーザーが「うまい」と言ってくれた感動を味わえるのは、
水を届けた人だけです。水を汲んだり、コップを洗ったりする人は、
言われたことをやっているだけで、ユーザーの顔はいつまでたっても見えないから、
ただその仕事を一生繰り返すことになる。


これでは、ユーザーが喜ぶようなサービスはできません。
これはハリウッド映画でもゲーム作りでも同じで、分業化の弊害とも言えます。
ウチではこういったことに、ならないように心がけていきたいです。



Death Strandingの制作の歩みについて

映画監督のギレルモ・デル・トロ
小島:

ウチではゲーム制作はもちろん、パッケージに至るまで全て内部でやります。
これはデル・トロ監督や、レフン監督のやり方と一緒ですね。
こういったやり方を受け入れてくれる会社って、なかなかないんです。
でもSIEさんは「OK」と言ってくれて、本当にありがたく思ってます。


基本的にインディーズになっても制作のスタンスは変わらないです。
ただDeath Strandingではこれまでにない、未知の領域のものを作ろうとしていて、
作ってみて良いか悪いかの判断ができないときがあります。


そんな時は、すでに体験している既存のものに寄せようとしがちです。
もちろん、寄せることで良くなることもありますが、新しいゲーム性を出そうとしている時に、
それでは本来向かおうとしているところから離れてしまうので。
新規と既存の間を取るしかない。ゲームが完成するまでスタッフさえも分からない事なんです。


DEATH STRANDINGのカットシーン映像
小島:

Death Strandingの制作では、2つのティザーにもそれが表れていますね。
最初のティザーで、突然ノーマンが裸で赤ん坊を抱いて、空には人が飛んでいて、
周囲には死骸が浮いているとか。まったく訳が分からないじゃないですか(笑)


だから2つ目のティザーでは、世界観がある程度分かるように、
軍人や戦車とか、世界観を連想しやすいモチーフを入れたんです。
それでもゲーム性はまだ分からないと思いますが。



実際デスストランディングはどんなプレイになるのか?

デスストランディングのノーマン・リーダス
小島:

裸のノーマンでそのまま戦う分けじゃないです(笑)
ただ操作感については、アクションであれ、FPSであれ、AAAをプレイしている人なら、
すんなり操作できると思います。


立っているノーマンを普通に動かし、その辺に何かあれば拾えますし、
武器があったらそれを使うこともできます。入口は他のゲームと同じなので。
ただ、その先は別の世界が広がっていて、プレイするうちに『A HIDEO KOJIMA GAME』を感じて
もらえると思います。これを実現するためにオープンワールドとDECIMAエンジンが必要な訳です。



第2弾ティザートレイラーの反響はどうだった?

小島:

前のティザーと今回のものを同時に流すとこうなるとか、
かなりクレバーな検証をしている方がいたのが印象的でした。
ちなみにDECIMAエンジンで作ったのは2本目からです。


このエンジンでどういう世界ができるのかの実験の舞台でもあって、
あれはPS4 Proで4Kでリアルタイムで動いてます。
これを出発点に、ゲリラゲームズの方と一緒に、もっと良いものに仕上げたい。



デスストランディングの『繋がる』とは具体的に何を暗示しているのか?

小島:

オンライン要素であったり、いろいろですね。
ゲーム性とストーリーもシンクロしていますし、現実の繋がりを大切にするという
意味合いもあります。僕らを支えているSIEの皆さんやデル・トロ監督、
ノーマンさんやマッツさんがいたからこそできることもありますから。



小島監督とコジプロにとって2017年はどんな年になりそうか?

ノーマン・リーダスのパフォーマンス・キャプチャーの撮影シーン
小島:

具体的にどうなるか分からないが、大変な年になることだけは間違いないと思う。
願いとしては、ちゃんとゲーム作りに専念したいです。
2016年は本当に世界中を駆けずり回って、あまりにも飛行機に乗り過ぎて、
腰がおかしくなりましたし、時差ボケが治らないようなこともありました。


ですが、テクノロジーを探すのとキャスティングをするのと、
出資者や賛同者を含めていろんな人に合わないといけないし、
ゲーム関連のイベントにも出演しないといけません。


2017年はイベントに行く回数を減らす予定だが、パフォーマンスキャプチャー撮影とか、
ゲーム制作のために海外に行く必要もあると思いますので、
状況は今年とあまり変わらないかもしれませんね。



Death Strandingの発売はいつ頃になるのか?

デスストランディングのマッツ・ミケルセン
小島:

予定としてはもう決まっています。
決まっていないとビジネスではありませんし、出資もしてもらえません。
そこに行きつけるように、スタッフ一同で努力していきます。
それまでティザーを見たりしてお待ちいただければと。


現状で言えることは、ノーマンが主人公で、
ユーザーは彼を通して物語を体験できるということです。
マッツさんも重要人物で、他にも魅力的な人物が多数登場します。



小島監督のインタビュー感想

感想

水を運んだ人以外は、いつまで経っても感動を味わえないのは何だか分かります…。
人前に出る仕事の人だけ目をギラギラさせて、
裏方は死んだ魚のような眼をして平凡に仕事してる感じだろうか。
分業化の弊害といえば、確かにそりゃ言えてるな~


でも最近のゲームクリエイターは、プロデューサーやディレクター以外に、
露出する機会が増えてきたような気がします。
まぁ会社から「お前出ろよw」と命令されて、渋々露出してるんだと思うが、
本人らのやりがいをどこで満たすかってのは、モチベーションを維持するためにも重要だったりする。


最悪、「貴様っ! よくも人の手柄を!」とか言って、
喧嘩ぽくなり、仲が悪くなることも十分あったりもします。
チームの人数が多いと、そういったことが発生する確率が上がりますからね。
上に立つ人は、そこをコントロールしないといけないから、案外大変だったりする。



それはそうと、メディア・モレキュールのSNSを拝見したところ、
確かに理想の会社と言えるかもしれませんね。
会社のオフィスに犬が居たり、子供が遊んでたり、デザートを作って食べてたりと、
なんつーか仕事を楽しんでやってる雰囲気が感じられる!


くつろいでいるというか、まるで自分の家でみんなと作業しているかの如く。
協力的で何かファミリーを感じられるし、悩みを抱えてそうな雰囲気もしない。
日本であんな感じのことをすると、「明日から会社来なくていいから!」とか言われますね…。
何かに縛られて仕事してる感じでもなければ、自由な発想も浮かびやすかったりするのかな。



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